志方あきこのアルバム感想、何から書こうか迷ったのですが、まずは最新作の『月夜の音楽会』から。
こちらはゲーム『嘘つき姫と盲目王子』のコンセプトアルバムです。表題曲の『月夜の音楽会』がテーマソングです。こちらのゲームのイメージ動画で『月夜の音楽会』を聴くことができます。
https://youtu.be/Uo2zA3v9D70
www.youtube.com
この動画を見るだけで「絶対切ない泣きゲーじゃん……」ってなると思うんですが、実際切ない泣きゲーです。端的にいえば「森版人魚姫」みたいな……。
おおまかなストーリー
・バケモノたちが住む森に、美しい歌声のオオカミがいた。毎夜歌われるその声を、近くの小国の王子が気に入っていた。ある日オオカミが誤って王子に怪我をさせてしまい、王子は目が見えなくなってしまう。
・目が見えなくなり跡継ぎとして不要となった王子は、牢に幽閉されてしまう。様子を見に行ったオオカミは、目の見えない王子に誰かと訊ねられてとっさに「隣国の姫で、見舞いに来た」と嘘をつく。
・森の魔女ならば代償を差し出せば王子の目を治してくれる。しかし王子をそこまで連れて行くには王子と共に森を越えなければならない。オオカミの姿ではまた王子を傷つけてしまう。オオカミは魔女に「美しい歌声」を差し出す代わりに人間の姫の姿にしてもらい、王子の手を引き森の魔女の元を目指す……。
詳細なストーリーはゲームの公式サイトでご確認ください。
nippon1.jp
このコンセプトアルバムは、二人の冒険や心情、ゲームの世界をより深く感じられるものとなっています。以下、各曲の感想です。あまり具体的に書かないつもりですが、ゲームの内容やエンディングに触れているので、未プレイの方はネタバレ注意です。
ちなみにコンセプトアルバムのプロモーションムービーはこちらになります。
www.youtube.com
アルバムの公式サイトはこちら↓
luteinc.co.jp
各曲感想
●月夜の音楽会
1.月夜の音楽会
ゲームのメインテーマです。エンディング後の王子の心情が描かれており、ゲームのエンディングを見た後に聴くと心に沁みます……。
ゲームのエンディングを見たとき、わたしは結構うちひしがれたというか……ラストが切ない別れになるだろうとはわかっていたけどこんなに? って思いました……。
冒険している間は、手を繋ぐと笑顔になる二人を見ると可愛らしくて、二人で協力して仕掛けを解きながら先へ進んで。アクションゲームは苦手で難しいけれど、楽しくプレイしました。
でも、物語のそもそもの始まりから、意図せずとはいえ王子を傷つけてしまうオオカミ、親(国王)から見捨てられて幽閉される王子、その王子を嘘をついて連れ出す姫となったオオカミ……と切ないオンパレードで……わたしは、物語の途中で「人間」と「オオカミ」のすれ違いを見るたび「本当は交流を持つべきではなかったのではないか……」と思うことがありました。あれは不幸な事故とあきらめて、「人間」と「オオカミ」が交流をすべきじゃなかったんじゃないか……と。王子は、姫の正体を知ってもそばにいることを選んだ。けどそんなエンディングを見ても「本当に、出会いさえしなければ良かったんじゃないのか……生きることわりがあまりに違うじゃないか……姫は自分の目的は果たせた。でも王子は本当にそれでよかったの……?」とすごく悲しい気持ちになってしまいました。
ですが、この『月夜の音楽会』を聴いて「王子は悲しみを受け入れて姫の、オオカミのそばにいることを選んだんだ……ここから新しい未来へ進むことを選んだんだ……」と思えたのです。たとえ姫が何も覚えてなくても、かつての歌声を失っても、姿が変わっても、王子にとってはあの時手を繋いで一緒に冒険した姫なことに変わりはなくて
「この手を放さずにもう一度始めよう」
それが王子の選んだ道なんだ、と。ゲームのエンディングで感じた悲しさを見事に昇華してくれた歌です。
イントロなどにばんばんとピアノを叩くような音が入っているのですが、これは魔女に奪われたあとの歌声を表しているのでしょうか。ちょっと切ないと同時に、王子にはこれが愛しい歌声なのかなと思ったりします。
2.キノコの夢
ゲームプレイ時にキノコジャンプ(キノコの上でジャンプすると高く飛べるため、それを利用してステージを進んでいく)に苦しめられたプレイヤーは少なくないと思うんですが、そのキノコジャンプの苦労がとても可愛い歌になっています。聴いているとゲームの映像が浮かんできて……「失敗する時もある」という歌詞にすごく慰められます……(笑)。
キノコ♪キノコ♪のコーラスとサビの「飛んで跳ねて~」がすごく好きです。「菌糸の森に~」の後のメロディーが可愛い。
3.樹上の森
すごく可愛い曲。歌詞もメロディーも可愛いです。ゲームではボツになったステージ「樹上の森」がモチーフだそうです。その名の通り、樹の上で鳥たちと戯れているような曲。サビのピーピピチュラ~♪って鳥の鳴き声のようなコーラスがとても好きです。
特典冊子に口笛の苦労が語られており、口笛って自分は吹けないので吹ける人にはさらっと吹けるもののようなイメージがありましたが、そんなことないんだなあ……。
ゲームに実装されてたらどんなステージだったのかなあ……と考えて、きっとジャンプの多い(わたしにとっては)高難度のステージだろうな……この可愛い曲と真逆の……と思いました(笑)。
4.森の海 月の雫
全編造語詞のかっこいい曲です。樹上の森が森の可愛い一面だとすると、この曲は森の「自然としての脅威」や「(人間にとっては)モンスターが跋扈する恐ろしい場所」という一面なのかも……と思ったりします。
メロディーとコーラスが聴いていて気持ちがよくて、ずっと聴いていたくなる曲です。
5.古の記憶の眠る場所
そわ~っと怖い雰囲気の曲だな……というのが第一印象です。「おいで」というコーラスが地下世界に誘われている、みたいな……。解説を読むと、そんな怖い理由ではなかったのですが。
雰囲気が『化石の楽園』に似ているなと感じました。触れたら壊れてしまう繊細な感情。それが消えないように「おいで」と呼んでいる。冷たい地下の世界だけど。水滴が滴り落ちるような音が印象的で、それが「地下」や「寒さ」を感じさせます。でもそんな誰も近づかない場所だから、姫に生まれた小さな感情も、そこにあれば消えない……みたいな感じでしょうか。
6.見つめる小黒鳥
ゲーム中の姫の心情を歌った曲。ものすごく好きです。
ゲームのイメージムービーでも最後に「本当のわたしではあなたに触れられない」と出ますが、まさにそれを歌った曲。不穏な曲調、自分の正体に嘆くオオカミ。イントロや曲中でコチコチと鳴る音が王子との時間のタイムリミットのよう。「気づかないで」と願い、「本当の姿では触れられない」と嘆く。それでも姫は王子の目を治すために彼の手を引いて森の中を進む……。重厚なコーラスや終盤のエレキギターがすごくかっこよくて好きです。
わたしはこういう「嘆き」がテーマの歌、好きです。『終の果て』とか『侵食スル世界』とか。
7.いちばん星
『見つめる小黒鳥』が姫の心の暗い部分なら、こちらは明るい部分、と思います。『月夜の音楽会』の姫バージョンのような。
姫にとって、王子と森の奥に進めば進むほど別れのタイムリミットが迫ります。もし「魔女は別の場所に引っ越してしまって、探すのがすごく時間がかかる」とか嘘をついたら、王子との時間をいくらでも引き伸ばすことが出来る。でも「影絵の世界からあなたを連れ出すわ」と王子の目を治すために進んでいく。姫は自分の正体に嘘をついて王子のことを連れ出したけど「王子の目を治したい」「(事故とはいえ)自分の起こしたことを償いたい」と思っている、その心は本物です。だから王子も「きみは嘘つきじゃない」(『月夜の音楽会』)と言うんだ……とこの曲を聴きながら思いました。
●月夜の散歩
アニメイトの特典CDです。こちらの感想も以下に書きます。
1.綿積りの夜
造語詞の幻想的な曲です。ウィスパーで幻想的な雰囲気から始まり、だんだん盛り上がっていき1:20~くらいの高音の歌声が綺麗で好きです。2:44~の盛り上がりと3:20~くらいのエレキ(たぶん)っぽい音とコーラスがかっこいい!
2.古の記憶の眠る場所~いつかの声~
同曲のアレンジ版です。メインボーカルはなく最後に「おいで~」のコーラスが入ってます。笛の音が好きです。前半部分は歌がないとゲームのBGMみたいだなあと感じました。
3.木霊のほとり
梟などの鳴き声の入った曲。メインのピアノと時折入る梟の鳴き声に、暗い森を一人で歩いているような雰囲気だなと感じました。一分あたりからのメロディーが心地よいです。1:30~くらいに小さく聞こえる金属っぽい音(楽器はさっぱりで、的確な表現ができないです……)が、木の隙間から星が見えたのかしらと思ったりします。
●その他雑談
どの曲も好き! というのが総合的な感想になります。わたしの場合、たいていどんなアルバムもその感想になってしまいます……だってどれも素敵な曲ばかりで……。でも、素敵だと思うし、好きなんですけどそれを「言語化する」ってとても難しいですね。わたし自身は楽器に疎いし音楽は好きだけど聴くばかりできちんとした知識もなくて……伝える語彙がないんだなとこれを書きながら思いました。
えーと前回の雑談レベル記事のすぐ後からこの記事を書いてますのでこれを書くのに約三ヶ月かかってます。時間のかけ具合と中身が一致してませんね。でも、これを読んで「聴いてみたいな」とか思って頂けたなら幸いです。